
AI活用を組織変革につなげる「変革テーマ」―AXで経営課題を現場の実践へ
AX COLUMN|AI×戦略実装
生成AIの普及に伴い、さまざまな組織でAI活用が検討されるようになりました。ただし、導入や検討を進める企業でも個人利用や試験利用が中心で、部署の業務プロセスや全社のサービスへ組み込む段階に進んだ例は、まだ多くはないようです。だからこそ、AXによる組織変革に向けて、数あるAI活用の候補からどれを組織として取り組む変革テーマに選ぶかが問われています。
ジェックが捉えるAXは「AI×戦略実装」です。経営課題を現場で確かめられる変革テーマとして言葉にし、小さく試して見直すことが、個々の活用を組織の変化へつなぐ出発点になります。
この記事で分かること
・AI活用の候補から、組織として取り組むものを選ぶ考え方
・経営課題を、現場で確かめられる変革テーマにする四つの要素
・小さな実践で得た事実から、変革テーマを見直す進め方
生成AIの利用は、個人・試験段階が中心
情報処理推進機構(IPA)の『DX動向2026』は、生成AIを「導入している」「現在、試験利用をしている」「利用に向けて検討を進めている」企業に、組織での利用状況を尋ねています。「個人で業務利用している」は63.3%、「個人や部署で試験利用している」は44.8%でした。
一方、「部署の業務プロセスに組み込まれている」は11.9%、「全社的なサービスに組み込まれている」は18.6%です。IPAは、生成AIの利活用は個人利用・試験利用が中心で、組織的・戦略的な利活用に至っている企業はまだ少ないとまとめています。
同じ報告書では、DXに取り組む企業のうち、DXの成果指標を「設定している」企業は2025年度で23.9%と、4社に1社に届かず、前年度から大きな変化もありませんでした。
これはDX全体の結果であり、AI施策だけを対象としたものではありません。また、成果指標の設定がDXの成果を生むという因果関係を示すものでもありません。ただ、何をもって前進とみなすかを決めることも、多くの企業に残る課題と言えそうです。
すべてのAI活用を変革テーマにしない
日々の仕事を便利にする活用と、組織変革のために優先する活用は、どちらも大切です。ただし後者には、経営課題との関係と、現場で確かめられる具体性が必要です。
候補を比べるときは、「どの経営課題の解決につながるか」「現場のどんな変化で成果を確かめるか」「一つの業務やチームで試し、次へ進むかを判断できるか」の三つを確かめてみてはどうでしょうか。
ここで選ぶのは、成功が約束された施策ではなく、どこから働きかければ「変化」が起きるのかを確かめる候補です。最初の選択を固定せず、試した結果から、次の一手を決め直せる形にしておきます。
経営課題を四つの要素で変革テーマにする
選んだ候補を「生成AIで営業を高度化する」のような大きな言葉のまま置くと、実践の範囲も、振り返る事実も曖昧になります。本記事では、経営課題を現場で確かめられる形にした言葉を「変革テーマ」と呼びます。
変革テーマは、今起きている問題から最初の試行までを、次の四つの順に考えます。ここでは、法人営業で「お客様への見積もり回答に時間がかかる」という課題を例にします。
現在の問題:どの仕事の、どんな場面で滞りや行き違いが起きているか
例:過去の類似案件の情報が部署ごとに散らばり、営業担当者と技術部門の確認が何度も往復している
変える対象:その状況を変えるために、どの仕事・判断・関わり方を見直すか
例:技術部門に相談する前に、営業担当者がAIで類似案件と過去の回答を集め、確認すべき点を絞ってから相談する
期待する変化:その結果、誰の仕事や行動がどう変わると考えるか
例:営業担当者の確認待ちが減り、技術部門は同じ質問への対応が減る。お客様は検討を早く進められる
試して確かめること:まずどこで試し、何を見て次へ進むかを判断するか
例:一つの営業チームで試し、確認の往復や回答までの日数が減ったか、かえって増えた作業はないかを見る
「期待する変化」は、試す前の見込みです。試した結果をもとに、対象を広げるか、変革テーマを見直すかを判断します。AIは、仕事の進め方を変えるための手段です。
小さく試すと、判断基準と組織の前提が見えてくる
変革テーマができたら、全面展開を急がず、一つのチームなど範囲を絞って試し、次の判断に必要な事実を集めることから始めます。
同じ取り組みでも、関係者が重視することは異なる場合があります。たとえば、経営層は経営課題が前進する兆し、推進部門は安全に運用できる条件、現場は仕事に無理なく組み込めるかを見ているかもしれません。
そこで試す前に、立場ごとに「何が起きれば前へ進めるか」「何が起きたら立ち止まるか」を出し合い、それぞれを試行中に確かめる項目にしておきます。先の見積もりの例なら、経営層の関心には「回答までの日数」、推進部門の関心には「顧客情報の扱いのルールが守られたか」、現場の関心には「担当者の作業が増えていないか」、といった具合です。こうしておけば、試した結果を一つの立場からだけでなく、それぞれの基準で確かめられます。
この過程では、判断の前提になっている信念や、職場に根づいた「当たり前」とされるものも表れます。ジェックでは、これまでの経験を通じて心に刻まれ、判断や行動を方向づける自分なりの信念を「行動理論」、集団に共有された判断と行動の傾向を「集団性格」と呼び、「挑戦」・「協調」・「お役立ち」という三つの価値観から捉えています。
試行を振り返るときは、なぜその選択をしたのかに加え、想定外の場面でチームが新しいやり方に踏み出せたか、部門を超えて協力できたか、お客様を起点に動けたかを確かめると、変革テーマを見直す材料が増えます。
AIを導入しても組織が変わりにくい理由と、戦略実装の過程で起きる「5つの断絶」は、ジェック公式サイトの関連コラムで詳しく解説しています。
▶関連記事:「AIを導入したのに、なぜ組織は変わらないのか? ~AIを「組織変革」につなげるために必要な戦略実装とは~」
得られた事実で、次に取り組む変革テーマを選び直す
小さな実践の目的は、最初の案が正しかったと証明することではありません。経営課題の捉え方、変える対象、期待した変化、確かめ方のうち、どこを修正すべきかを知ることです。必要であれば、当初のテーマを止め、別の候補へ人と時間を振り向けます。
次の検討会では、活用事例を紹介した後に一つ聞いてみてください。「この事実を受けて、次に選ぶ変革テーマの何を変えますか」。実践の結果が次の選択を変えてこそ、試行は組織の学びになります。
要点のまとめ
- AI活用の候補を並べるだけでなく、経営課題との関係と現場で確かめられる具体性から、組織として取り組むものを選ぶ。
- 変革テーマは、現在の問題、変える対象、期待する変化、試して確かめることの四つで言葉にする。
- 小さく試して得た事実から、続ける、変える、止めるを判断する。
AXを進めるとき、「AIで何ができたか」だけで終わらず、「この実践から何が分かり、次にどの変革テーマを選ぶのか」まで話し合う。その積み重ねが、AI活用を経営課題に向き合う組織変革へつなげていくのではないでしょうか。
AI活用をどの変革テーマから始めるか、お気軽にご相談ください。
AI活用を、組織変革につなげるために
AI活用を個人や部署の試行で終わらせず、経営課題の前進と現場の変化につなげたい方は、現在の課題や検討状況をお聞かせください。
独立行政法人情報処理推進機構(2026)『DX動向2026:広がるAI導入、DXは変われるか』(公的機関の調査報告書)https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/dx-trend-2026.html(2026年9月9日閲覧)




